Fumiya Tanaka

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共同作業の面白さ

共同作業の面白さ

Oct 12, 2018

札幌Precious HallでDJをした翌日にkuniyuki君のStudioに伺い、レコーディングを始めたのが最初のセッションでした。
彼のスタジオにあった沢山の打楽器の録音、彼が手に入れたばかりのJUPITER8、シンセサイザーのデジタルピアノの即興演奏など様々な素材を手当たり次第に録音していきましたが、その際のkuniyuki君の手際のよいablton liveを使った録音処理に感心したことを今でもよく憶えています。


私は基本的に曲作りは1人で全ての作業を行う為、自分とは違う感覚や感性との共同レコーディング、曲作りはいつも刺激や発見があります。
これは私が人と何かを作る作業を続けている理由のひとつでもありますが、作業の進め方や音色選びひとつにしても自分が持っていないものを提示される共同作業は自分が持っているものをいかに組み合わせて提示出来るかという作業でもあって、自分が1人で作るものとはまた違ったものが出来上がってくる面白さがあります。
想像を超えるものが出来あがればそれは嬉しいし、そうでない場合はいちからやり直し、それ自体共同作業の醍醐味でもありますが、私の場合はまだまだ改善の余地があるなあというのが自己評価です。
以前よりは成長していると思いたいのですが、2010年の4月にkuniyuki君のstudloで行った最初のこのセッションの膨大な音素材はいまだそのままに残っています。共同作業の難しさでしょうか。


曲作りの大まかな流れや作業は私の知る限り余程の斬新なアイデアや進め方でない限りそれぞれでそれほど大きな違いはないと思っています。それでもそれぞれで個々に自分なりのやり方はあって、その人特有のアプローチや音選び、アレンジがあります。
その小さな違いがその人の曲の個性と繋がっていて、その小さな違いの積み重ねがそれぞれの違いになっていると思っています。
最近は情報化社会でクオリティーの高い曲を作ろうと思えば誰にでも作れる時代に突入したと言えると思います。ソフトウェア、ハードウェア共にテクニカルな面の進歩が目覚ましい反面、違いを作る難しさもある。
似て非なるように聞こえても小さな違いを楽しむ最近の潮流はある意味で自然なことかもしれません。

以前映画音楽の録音を見学させてもらったことがあるのですが、音楽の専門用語が飛び交う会話とそれに合わせてセッションが成立していく過程に感動したことがあるのですが、その時の緊張感や独特の雰囲気、阿吽の呼吸とはまさにこのことだとレコーディング風景を眺めていました。
こうした作業の違いを見ることが出来るのも共同作業ならでは、企業秘密とまでは言いませんがラーメン屋に例えれば自家製スープの作り方や食材を見せてもらうようなもので、共同作業を通じて目からウロコなんてこともよくあります。

今回リリースされた2曲は2012年の3月、12月から始めた音データを往復書簡のようにやりとりして作っていった曲です。
2016年の3月にやりとりして出来たものを含め何度もやり直し、数字で表せばなんとか1+1=2に辿り着いたというところでしょうか。
1+1=2プラスアルファこそが目指していくところでしょうね。

Beaytiful Days 

Beaytiful Days 

Apr 6, 2018

少しでもくつろいだ環境で録音がしたかったので今回は自宅のリビングルームを録音場所に選びました。
DJミックスは録音環境が作品に与える影響が大きく、作品のキャラクターをある部分決定づけるところがあります。
録音場所の選択肢はそれほど多くはないですが、内容に適した環境で録音することは大切だと思います。

録音したのは編集無しの1発録音を5テイク録りました。
テイク数は大体これぐらいを録音しないと、良いテイクは生まれないと思いますし、高い集中力が続くのも大体これぐらいのテイク数ではないかと思っています。
編集無しの一発録音では、最初のテイクから高い集中力が必要になってきます。最初の何テイクかは深い集中に入っていく為の鳴らし運転のような作業でもあるのですが、回数を重ねるごとに段々と良くなっていけば、その波に乗って録音し終えることを目指します。
いきなり最初のテイクで良いものが録音出来ることもあり、その時のコンディション次第でばらつきはあると思います。

事前に曲順を考えていたプランはふたつあって、ひとつは割とイメージを作り上げていたプラン、もうひとつはあまりイメージを作り上げずグルーブだけを決めていたプランで、それぞれを順番に1テイクずつ録音しました。
自分のコンディションと時間に少し余裕があったので、この2テイクの録音の後、事前のプランを無視した曲順のテイクも録音しました。

休憩を兼ねて3テイクを聞き返したのですが、録音する前に有力じゃないかと考えていたイメージを作り上げていた曲順のプランはあっさりと選内から漏れました。
それは少し意外な結果でもありましたが、もうひとつのやってみないと分からない、事前にあまりイメージを作り上げていないで録音したプランが終始一貫してグルーブが貫かれていたテイクだったので、このプランで録音をし続けることにしました。

ちなみに事前のプランを無視したテイクは、全体を通して聞いてみるとどこかまとまりがなかったので選外としましたが、このテイクの録音に未発表のトラックを使うタイミングがあって、結局この録音がヒントになって、このあとに続けて録音するテイクにこの未発表のトラックを加えることに出来たのは収穫でした。

DJミックスは実際の録音中に自身の直感で1番手応えを感じた瞬間が複数あってのめり込んだテイクが大体結果的に良かったりすることが多く、事前にイメージを作ってプランニングをし過ぎると、かえってそれに拘り過ぎてしまったり、出来上がりがどこか窮屈なものになってしまっていることがあったりします。
編集に編集を重ねるDJミックスは録音したテイクを更に作り込んでいくプロセスがあるのでプランニングは重要な要素だと思いますが、編集無しの一発録音の場合は、やってみないと分からないぐらいのプランの方が、選曲と曲順の選択肢が広いし、それをその都度考える事で余計な事を考える暇もなく作業に集中できるメリットがあると思います。

このあと2テイクを録音しその日の録音は終了。
数日後に聞き返し、最後に録音したテイクをマスターにしました。
マスターを選ぶ時間的猶予がある場合は、1度録音環境から離れて頭の中をリセットして再び聞き返すと、マスターを選ぶ際にその選択をより客観的に出来ると思います。
個人差はあると思いますが、私の場合録音翌日、または数日後、時間間隔を空けてマスターを聞き返すことで、マスターを選ぶ精度を上げています。録音直後だとどのテイクが良いのか分からなくなっていたり、気づかないといけないところを見落としてしまったり、注意力がベストの状態から落ちている場合があるので、飽和した頭とカラダの状態をリセットしてからマスターを選ぶのは、正しい検証に繋がると思っています。

今回使用したマスターレコーダーはDAT。
2002年リリースの「DJ MIX 1/2 (MIX,SOUND,SPACE)」以来の使用でしたが、DAT TAPEならではの質感をマスターに残したかったことや、最初から編集をしないと決めて録音することで自分を追い込む、追い込むことでより現場に近い集中力を発揮したかったことがDAT TAPEを使用した理由でした。
本当はSTUDER A820を使いたいのですが、予算オーバーで諦めました。

マスタリングを引き受けてくれたのはKIMKEN氏。
2008年リリースの「Unknown 3」以来のセッションでした。DAT TAPEをマスターに使用する手間を快く引き受けてくれた氏には感謝しています。
現在DJミックスを作る時に使用するマスターレコーダーの主流はハンディレコーダーやコンピュータのDAWではないでしょうか。トラブルの際のリスクを考えれば自然な選択だと思います。

今回マスタリング作業中にマスター内複数箇所にデジタルノイズが発生し、その箇所をバックアップデータと差し替えてマスタリング作業を続けるDAT TAPEならではのクラシックな定番トラブルに見舞われましたが、事前にバックアップデータを作っておいたので対処出来たのは、KIMKEN氏のバックアップは一応準備しておきましょうという助言があったからでした。
バックアップデータが無ければ録音に使った同じ機種のDAT DECKを持ち込んで試すしかありませんし、それがダメならそのマスターは使えない、最終的には録音のやり直しになってしまいます。
このようなトラブルは90年代の録音、マスタリング作業において、何度も経験してきたことでしたから、この失敗を活かせていない私のDAT選択は反省するところでもあります。
何を血迷ったか私がしたように現在においてマスターレコーダーにDATを使用することはあまりお薦め出来ないと思っています。私が言うと本末転倒していますが。

最後に過去に作った自分のトラックを自身でDJミックスする作業は有意義で不思議な時間でした。
自分の音楽制作面と向き合う作業でもありましたから、今とはアレンジの仕方が変わったところや、変わっていないところ、音の選び方の変わったところ、変わっていないところ、マスターのクオリティなど再認識、再確認するところなど、音楽制作にフィードバックできるところは多かったと思っています。いつかまたDJミックスを作る機会に巡りあえたら、更なる飛躍をした作品を作りたいと思っています。

毎回のDJにおいて、バリエーションを考える

毎回のDJにおいて、バリエーションを考える

Feb 28, 2018

毎回次のプレイの前に選曲をしますが、その際に事前にプレイの方針を決め、持っていくバイナルを決めていきます。
その際にどういった方針でいくか、どういうことをやるか、どこまでの変化に対応出来る準備をするかを考えます。

前回のDJ、セットの準備から今回はどこまで変化をつけようか、その準備の為に今回はどこの都市でやるのか、それはどんなパーティーなのか、以前にそこでプレイしたことがあるのか、ベニューの大きさ、プレイ時間、ラインナップなどを参考にして、現地のお客さんのイメージをざっくりと想定し、自分の調子やアイデアと照らし合わせて今回の方針を固めていきます。

前回の準備のセットからほとんど変化をつけない準備で終わらせて今回に備えることもあるし、前回の準備のセットからバイナルはほとんど選ばず、新しい準備のセットをいちから選曲をしてまとめ、前回とはほとんど違う準備のセットで今回は備えることにすることもあります。

それが実際どうなるかは現地に行ってみてやってみないことには分からないのですが、新しい準備のセットが的を外れていてうまくいかない場合はありますし、失敗してしまうリスクを考えると新しいセットで臨むことに躊躇します。
事前の準備は持っているバイナルをいちから聞き直して選別する骨の折れる作業でもあって、準備の段階で中々結論が出ないこともあり、気が滅入って諦めたくなる時もあります。

前回のDJが良ければいいイメージがあるので、面倒な作業は省略して、前回同様今回も似た準備のセットで今回もやってみようと考えてしまうのは自然なのではないかと思っています。
実際に良い時はその流れに乗っていきたいと思いますし、調子が良ければその流れには逆らいたくないものです。
調子が良い時はそういう判断は有力だし、実際にそれでうまくいくケースは多くあります。
それでもうまくいく保証は最初からありませんから、調子が良いからといって前回と似た準備のセットで失敗しないという保証も無いということだと思っています。

僕達DJは毎回現場が違いますから、実際には現地に行って見て聞いて感じてプレイするしかありません。
現場に合った選曲をその都度何かを考えてみる、それを実践してみることは毎回違う現場を理解することに繋がると共に、自分のプレイのバリエーションを広げることに繋がる有力なアプローチだと考えています。
面倒な準備でもそれを厭わない、安全運転ばかりでなく時にはリスクをとって違ったアプローチをチャレンジしてみる、そのことは結果的にまた次の新たなアイデアやバリエーョンを考える手がかりに繋がっていく近道だと考えています。

感覚とのつきあい方

感覚とのつきあい方

Jan 27, 2018

今日は3週間ぶりのDJです。
アムステルダムには年に一度行くか行かないかのペースで呼ばれていて、今回のべニューはおそらく初めての場所だと思います。

行き慣れた場所ではないこともありますが、3週間ぶりのDJですから最初は少し戸惑うと思います。
ターンテーブルやミキサー、バイナルを触ってみて音楽との間合いやお客さんとの波長を図る感覚を取り戻す、このことに少し時間が必要になります。
あまり急がず無理をせず、ゆっくり集中していくことを心がけ、3週間使っていなかったなまっている感覚を取り戻すことに努めます。

週末の金曜日か土曜日、1日だけのDJの場合は自身のエネルギーのペース配分やピークはそのパーティーだけに持っていきます。
1日なのでDJをやりきったかどうかを判断した場合は少し物足りない感覚が残る時もありますが、余力を残しておくことはクオリティの高いパフォーマンスを発揮する、持続するためには大切な要素だと考えています。
この場合の余力を残すというのは全力で取り組まなかったり、持ってるアイデアを出し惜しみしたりする力のことではなく、コンピューターでいうと予備電池、有事の時に対応するための保険みたいな力のことです。
もちろんその力も時には出し切るケースは多々あります。

金曜日と土曜日、連日プレイする週末の場合はそれぞれのパーティーに自身のテンションのピークは持っていき、両日で使い切るペース配分を目指します。
ペース配分の調整は20年以上DJをやってるいまでも難しいですが、時間が過ぎていく中でその時の調子に合わせてギアチェンジをしていきます。
DJが続き過ぎると疲れてはきますが、感覚は時間の経過と共に研ぎ澄まされてくる。
フレッシュな体調で臨む初日のDJより疲れてる2日目のDJの方が自分自身ではしっくりくる感じがよくあるので、連日でプレイする時の方が自分自身は良い調子を掴みやすいと思っています。

毎週末DJを続けることはプレイ感覚を持続させることに繋がります。
ただルーティーンワークに陥りやすい側面を含んでいるので適度なリフレッシュを意識して心がけます。
そうすることで自分の中にある感覚とうまくつきあっていきます。

Beautiful Days

Beautiful Days

Oct 10, 2017

構想は2013年からぼんやりと温めていました。

ベルリンに移り住んでからの作品は2013年11月時点で手元に40曲ばかり、制作途中の曲を含めたら60曲近くありました。

実際にベルリン、ヨーロッパをベースに活動していた音楽活動、制作においては、生活全般が作品を作る上でのアイデアやプロセスに大きな変化を与えていたし、作品自体にも自分の音楽性をよりはっきりと形作っていった移り変わりを色濃く反映しているという感想は持っていました。

私が日本を離れてやりたかったことのひとつは作品を残すことであったし、活動の場を求めてベルリンに移り住んだ2010年以降の活動全般を知ってもらうには、その時間と共にあった作品をありのまま聴いてもらうことが自分らしいと考えていました。

決して活動をSNSや言葉で語りたくないということではないのですが、音楽を言葉で語るのは難しい、ただ語りたいという欲求もあります。

普段からDJとは?フロアーにレコードが選ばれるとはどういうことか?という禅問答のような問いと共に現場でDJをする活動があることもあり、実際にどの作品が現場で機能をするのか、音楽的にも意義のある作品を選別、検証することが必要だと考え、沢山の曲をストックすることが出来ていた状況もあり、2013年以降現場でのDJで自分の作品をプレイすることを強く意識するようにしました。

無理の無い自然なペースで進めたかったこともあり、2013年から2014年、2015年と段階的に、ヨーロッパ、南米、日本では自身のパーティーカオス、年末の神戸Troop Cafe、恵比寿Liquid Roomでは集中的に選別、検証を繰り返していたと思います。

グラフィックデザイナーのT氏にバイナルカバー、ラベルのデザインの依頼をしたのが2016年2月。
2015年11月頃には9割の選曲を済ませていましたから、自分のフィルターだけを通して作品を選別する面白みは再認識していました。
バイナルケースの色の組み合わせの方向性が決まったのは2016年12月。
バイナルラベルのデザインの方向性が決まったのは2017年の2月でした。

私のデザインのアイデアはいつも雑然とした説明で、それをいつも聞き入れ受け流し、アイデアの肉付けをしてくれるT氏との共同作業は、日の目を見ることの無いデザインが複数出来る作業でもあります。
その過程の中で作られたデザインのひとつが冒頭のデザインです。