Fumiya Tanaka

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当たりをつける

当たりをつける

Jun 30, 2016

プレイ中はバイナルケースの中にあるバイナルを1枚ずつ見て選曲するわけではありません。
それではどうやってプレイをしているか?

まずプレイの直前にそれぞれの現場で選曲出来そうなバイナルをある程度当たりをつける作業をします。
いわゆる現場での直前の準備です。

この時点で構想通りにやるのか、ある程度モデルチェンジするのか、予定していたアイデアをどうするのか、大体方針を固めます。
この時にいくつかの組み合わせや全体のおおまかな組み立ても同時にイメージします。

この当たりはおおまかに憶えておいてプレイを始めるのですが、プレイ中にバイナルをミックスし終わった後に次にかかるべきバイナルをその当たりの中からチョイスします。

そのチョイスがバイナルを見て決めるというより、構想を念頭に置きながら刻一刻と変化する状況を考慮し、次に必要とされる方針に1番近い最善の音やグルーブ、展開を仮定、結論付け、ぼんやりとでも持っているそのイメージに1番近いバイナルをチョイスする、というような作業を繰り返しています。

このイメージが途切れる事なく続き、迷う事なくこの作業が続く、当たりのバイナルの中から最善のバイナルをチョイスし続けられる時は大体調子が良い時です。

数にしておおよそ10枚から20枚。その中からプレイの組み立てやバイナルの組み合わせ、フロアの反応を瞬時に判断し、次にかかるべきバイナルを2.3枚に絞り込みます。

この時にほとんど頼りになるのは先のイメージと最後は直感で、1番最初に絞り込んだバイナルを選曲することは多いと思います。
その時に迷いなく選曲出来る時は冴えてる時ですから、そういう時は選曲しかけたバイナルを再び考え直し、別の最善のバイナルを選曲できる状況にも対応出来る余裕と深い集中力でプレイしています。

次のバイナルをプレイし、ミックスを始めるまでの時間は短くておおよそ3分、大体は5分から7分ぐらいの限られた時間の中でいかに正しい選曲を続けられるか、現場に行ってからああでもない、こうでもないという対応では間に合わないし、現場での柔軟な対応に必要になってくるのは経験と自分をコントロールできる知性、楽しもうとするオープンな心持ちが必要だと考えています。


DJを始めた頃はバイナルケースの中にあるバイナルを一枚ずつ見て選曲していました。
いわゆる片っぱしから手当たり次第プレイする、というようなスタイルです。
年月を経て経験をしていく中でそのスタイルでは段々通用しなくなっていきました。
年齢を重ね頭の回転の鈍りと記憶力の衰えによりそのスタイルでは出来なくなった、とも言えると思います。

全体を見て感じ構想していくプレイに興味が移っていった。

今思えばDJを始めた頃のプレイは勢いに任せたプレイで活動していました。
それで通用してましたから強引にありえない組み合わせを試したり、今では考えられない幅広いジャンルの音楽を一晩で選曲したり、自分の構想ややりたい気持ちを頼りにプレイを続けた時期が最初の10年ぐらいの活動だったと思います。

右も左も分からず向こうみずな勢いでやっていましたから、結果的にイノベーションは産まれた、無知が故無謀とも思われることに知らず知らずの内に挑戦できていた、というのは若さの特権とでも言えるでしょうか。

こういう若さ特有の跳躍的な発想を年齢を重ねて繰り出すのはなかなか難しい、若い時にしか出来ないDJがあるように、私のような年齢でしか出来ないDJや音楽があって、しかしそこに拘り過ぎることなく、イノセントな発想は常に持ち続けられるよう意識的にならないといけないと思っています。

おおまかにまとめる

おおまかにまとめる

Jun 13, 2016

DJを始めた頃からおそらく年月をかけて変わっていったとは思いますが、無雑作に入れていた事はおそらく一度もない私のバイナルケースの中は、私の場合自分のアイデアを軸にいくつかのバイナルを大きくグループ分けにして区分けしてまとめています。

どういうカテゴリーでグループ分けをするかは個性が出ると思いますが、私の場合はその時に用意するバイナルをおおまかに組み合わせ、いくつかの構想をおおまかに作り、それが3つぐらいのグループになっておおまかにまとめ分けられることが多いと思います。

どんなリズムやメロディーか、グルーブのキャラクター、音の強さ、キャラクターなどそれぞれのバイナルが持ってるポテンシャルの度合いを大まかに把握、総合判断しておき、構想の段階でおおまかに順序立てて組み合わせ、現場で直ぐに対応、把握しやすいようにまとめて分けておきます。

その他にはその都度現場に合わせて準備したバイナル、想定外に備えたバイナルもおおまかにいくつかまとめて準備をしておきます。
これは準備をやり過ぎるとキリが無く、かといって想定外を想定するのもある程度秩序だった事象や理論の上に想定外は導き出されますから、メインパートの準備を進める中でいくつかのあたりはつけておき、第3のグループとしてはっきりと意図を持っておおまかにまとめておきます。

これら全ての準備やまとめは、結局のところ現場での生の対応に必要不可欠なことで、実際の現場では準備した構想やアイデアを全てそのままうまく形に出来ることはそれほど多くはありません。
自分がイメージしたこととは違って進んでいったり、うまくいったり、迷ったりするのが生の現場であり、お客さんやフロアーその他たくさんの情報を、次のバイナルに繋げる数分の間で一挙に判断するのがDJの醍醐味だと思っています。
それで出来上がっていったものがその日限りの音楽で、それは自分の構想を成立させるだけで出来上がっていくものでは決してありません。
その為に出来るだけ現場でスピーディーな対応が出来るような準備は怠らない様にしておきます。
常に臨機応変な対応が求められるのが現場の醍醐味でもあるし、そこにやりがいやパッションを感じながらいつも取り組んでいきたいと思っています。

現場での対応

現場での対応

Apr 30, 2016

バイナルケースにもいろいろな種類のものがあります。
約70枚から80枚バイナルが入るスーツケース型のものから、約40枚入るショルダーバッグタイプのもの、100枚近く入るハードケースなど用途によって様々な種類があります。
私の場合は約70枚から80枚入るソフトケースを使用していますが、プレイ時間が90分など短い時間であればバイナルケース1つで対応します。
稀に2ケースのバイナルの量で対応する時がありますが、この場合は事前に現場の情報が分からない時の対応になります。

120分以上のプレイ時間なら2ケースのバイナルの量で対応します。
少なくとも1ケースはフル、1ケースは半分ぐらいのバイナルの枚数があるとよいです。
単純に準備の段階でどうしてもバイナルの枚数が増えていくのですが、アイデアの手がかりを見つける為に必要なバイナルは出来るだけ持っていくようにします。
もちろんそのバイナルを選曲することもよくあります。
結果的に使わないバイナルも出てきます。でもそれはプレイ後に分かることですから結果的に使わなかったバイナルは、それが思考のヒントになって最善の選曲、最善の組み合わせを選択している時がよくあります。
2ケース分のバイナルがあれば選択肢が増える、オプションを増やすのは現場での柔軟な対応に比重を置いているからです。

バイナルケースにどういうレコードが入っているかを把握する量としては2ケースの量のバイナルが適量だと思います。
1人の人間が1度に把握出来る情報量に限りはあって、2ケース以上だと多過ぎる。
選択肢が多すぎると迷いが出てどれもよく思えるものです。
あの時迷ったことが選択ミスの原因だったと後で気づくことがあります。
限られた選択肢でどうやってやりくりするか、現場での対応の醍醐味でもあります。

例外的に360分以上の長い時間プレイする時があります。
この場合は2ケース以上のバイナルが必要になります。
事前の準備段階でオプションを一つか二つ増やし、長い時間に合わせた組み立て、組み合わせるバイナルを現場で対応し工夫します。
アプローチは通常のプレイの時と変わることなく、選曲の組み立てや集中力は、マラソンを走る時のように長い時間一定のスピードを持続出来るような時間の使い方をします。
180分以上プレイする時は同様の対応です。
90分など短いプレイ時間の時の選曲の組み立てや集中力は、短距離を一気に走り抜けるような時間の使い方をします。
現場で方針を一気に固め、高い集中力を一気に使います。


フロアーにレコードが選ばれる

フロアーにレコードが選ばれる

Mar 31, 2016

調子の良い時はプレイ中に次にかかるレコードが自然に選ばれる、そのチョイスが迷いなく続いていきます。
それが繋がっていきひとつの流れみたいなものが自然に出来上がっていく、その波のようなものに入っていくような感覚を捕まえる、乗っていくような感覚でプレイしています。

そういうレコードに導かれ流れの中によりディープに時間の経過と共に一体化していく、こういう時は後で振り返るとあまりその時のことを細かく憶えてなかったりします。かけたレコードをプレイ後に聞かれても思い出せない時があります。
自分の存在など知らぬ間に忘れて、浮かび上がってくる次のレコードを迷いなくチョイスすることに没頭しています。

ある程度の時間をかけて出来上がっていくものがDJプレイであるし、そのヒントとなる指針はいつもフロアの反応や雰囲気、音楽の中に読み取れると思っています。その状況判断に自分の考えとアイデアを加えて選択するレコードが次にかかるべきレコードとして定義付けられると考えています。

フロアにレコードが選ばれるようにレコードをかける、自然に湧き上がるレコードを選曲するには中盤、終盤の的確な選曲と大胆な組み立てはもちろん大切ですが、プレイ序盤の判断、選曲、組み立てがとても重要だと考えています。その日のプレイをどこまで充実させられるかは序盤で決まってしまうと言っても言い過ぎでないと考えています。

最初にかけるレコードから数枚のレコードをかけるまでの時間帯にどのように取り組むか、力み過ぎず緩過ぎず。
充実した序盤があるからこそアイデアや工夫を活かせる中盤を迎えますから、序盤のミスは充実した中盤、終盤を迎えられるかに大きく影響すると考えています。

ただ例外もあって調子が良ければ序盤にミスがあっても、ミスを取り戻せるだけの力量が調子の良さでミスを上回る。
知らず知らずのうちに中盤の組み立てとアイデアで序盤のミスを取り戻して調子の良い流れに入っていることがあります。
調子の良い時は普段流してしまうような発想に気付くもの。レコードバックの中のレコードが良く見えているかどうかも調子のバロメーターを測るひとつだと考えています。

俯瞰で見る

俯瞰で見る

Feb 29, 2016

調子の波が悪い時に何をやってもダメな時があります。
私の場合は長い時でおおよそ3年間スランプが続いたことがあります
調子を崩している時は、自分の考えやアイデアに拘り過ぎて視野が狭くなっているもの。
アイデアや状況を俯瞰で見れなくなっています。
抜けたかなあと思ったら抜けてなかったの繰り返し。
調子が良い時はアイデアと状況を俯瞰で見れる瞬間が持続しますから、会場内で音が届いていないのではないか?というところにまで気を配れたような錯覚を起こしながら選曲ができる。
逆に言えばそれが出来ていない時は調子が落ちてきていると判断出来ると思います。
そういう時は大体ひとり相撲を取っていますから、その事に気付くことすら難しい。
ですから夢中になれる別の事をやってみたり、何もしないで休んだり、意識して視点を変えられるようなことをしてみるのもひとつです。

ただ調子の悪い時でも、悪いなりにやり切ることが大切だと思えるのは、その経験は次に調子が悪くなった時に必ず活かせると考えているからです。
調子が悪いからといっていい加減な準備やDJをしていると、スランプから抜けるのは容易ではない。
調子の波に関わらず、一見無駄に思える事をやり続ける事が、後に対処法として自分の経験として身につく。
調子の悪い自分と向き合うのは辛いし、長く続けば続くだけ辛さも長くなりますが、その経験は決して無駄ではなく、もがき苦しむことは次へのステップに必要な大切な肥やし作りになると考えています。

ただ経験が増えることは、色々な事の怖さが分かってくる。
知らず知らずのうちに無難にまとめる力量も上がりますから、ルーティーンな内容のDJやアイデアに陥りやすくなります。
普段から意識的にそうならないよう色々な音楽を聞く事やこまめなバイナルチェックを怠らない、やってみようと思ったアイデアは積極的にチャレンジします。
実際は毎回小さな変化をつけながら、内容やアイデアをアップロードしていく作業になりますが、おでんの煮汁に例えると新しい煮汁となる調味料や出し汁を注ぎ足すような作業だと捉えています。

対応に慣れてくれば調子の波が悪くなる前に未然に防げるようにもなります。
ただこの場合もルーティーンに陥り易くなる傾向にあるので、意識的にそうならないよう普段から意識します。