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One More Thing について
February 22, 2022
『後で買わなくてよかったと思うレコードを買ってしまうことはありますか?』と聞かれることがあります。
DJがレコードを買うときの基準は、このレコードをDJでプレイするかですが、結果的にプレイしなくてそのまま放ったらかしになるレコードを含むと答えは『あります』になります。
これを頻繁にやってしまったり、こういうレコードが多過ぎるのは考えものですが、嗜好や趣向、価値判断は常にアップデイトするので、その肥やしになる興味や対象にはあまり制限を設けたくないものです。
道順を決めて散歩するよりは、興味の赴くまま歩くことで思わぬ景色や出来事に出くわすように、制限を設けないでレコードや音楽を聞くことで、まだ聞いたことがない音楽に出会ったり見えてなかった気づきに出くわすことがあります。
DJの場合放ったらかしにしていたレコードを後で聞き返してプレイ出来ることがあったりするので、自分がこれだと思って手に入れたレコードや音楽とは長い付き合いになると腰を据えて付き合うぐらいがちょうど良い接し方だと思っています。
過去に中古レコード屋にレコードを大量に処分した苦い経験からも言えることとして、放ったらかしになった音楽やレコードはあまり気にしないのが良いと思います。
出来るなら馴染みの無い音楽に手を出してみたり、DJプレイとは関係の無い趣味の音楽を手に入れるぐらいの余裕は持ちたいです。
とはいえ年月を経るにつれ高額になっていくレコード市場を考えると、財布の中身に余裕がある人しか無制限にレコードを買うことはできないので、効率重視のご時世、無駄を省くのが当たり前という価値観の台頭は著しく、何を持って無駄とするのか、音楽に効率が当てはまるのかの疑問は残ります。
DJにとって収録された全ての曲が使用できるレコードは効率が良いかという問いが出てきますが、個人の嗜好や趣向、価値判断は違うし、何を持って正解とするかはDJによって違うので、全てのDJにとって効率の良いレコードや音楽などなく、ましてや人は音楽を効率では聞かないし、聞く人にとって響く音楽がその人にとって正解の音楽です。誰もが聞く音楽、レコードがないことがそれを証明しています。
それでも収録された全ての曲が使用できるレコードがレコードバッグに入っていたらDJにとって最高じゃないかと思うことがあります。
そういうレコードを作りたい、そこに少しでも近づこうとしたのが『One More Thing』で目指したテーマです。
ですからこのレコードにはダンスが似合います。
ただ自分のDJを基準に選曲しているので、全てのリスナーにとって響く音楽はありません。
あるのは、希望としては誰かにとって響く曲が1つぐらいはあるんじゃないかという思いです。
選曲は前回のアルバム『Right Moment』のリリース以降続けていた録音の中から、2019年までに集まった曲の中から選びました。
2017年に録音したOne More Thingをのぞいて、2018年と2019年に録音した曲です。
この時期90年代の録音手法を取り込み直す作業の目的で、放ったらかしになっていた90年代のDAT TAPEを聞き返したりしていました。
それは放ったらかしにしていたレコードを聞き返す作業と似ていて、自分の歴史を振り返る作業でもあったのですが、何だこれはと驚くサンプルがあったり、未完成の笑える曲があったり、今になってこれだったのかと気づく曲があったり、本来の作業から脱線し続けた時間でした。
その気づきを現在の趣向に合わせアップデイトした変化が、前回のアルバムと比べて変わったところだと思います。
キックやメロディーのキーなど、細かいところを中心に変化が及んでいるので、ざっくりいうと作風が固まってきているともいえます。
作業を一人で完結する分、曲の完成度は上がっていきますが、別の視点が入りにくくなっている分、思ってもない曲が出来上がる可能性が下がっています。
今回のような小さな変化を積み重ねていく先にあるのは次回のアルバムになりますが、今回の気づきは大きなアップデイトに繋がったようです。
最後にずっと誰かの音楽ライブラリーに、レコードバックに忍び込み続けている、どこかのフロアーで選ばれ続ける音楽を作れる秘訣を知っている人がいたら、こっそり自分に教えて欲しいというのがお願いです。
『One More Thing』(Second Part)のリリースは今年の夏予定です。
2021 新年
January 19, 2021
コロナパンデミックの影響が続いていますが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
昨年の私は主にスタジオと自宅の往復、みなさんと同じように自宅で過ごす時間が多かった一年でした。
コロナパンデミック以降にDJをしたのは3度、ヨーロッパやアメリカ、南米での恒例イベントやギグでのプレイは叶わず、日本でのレギュラーパーティー、毎年恒例の年末年始のDJも諦めることになりました。
実際世界中で活動している現場はほとんどありませんから、物理的に出来なかったのが実情です。
自分の音楽活動だけを考えると感染者数がヨーロッパと比べて少ない、またナイトライフへの規制がゆるい日本に一時帰国し、DJを続ける選択はありました。
ただそれをやるとこちらで生活、活動していることが骨抜きになるし、状況を考えると今はこちらのルールに従いこちらの空気を吸う、音楽を共有する時間が来るのをみなさんと同じように待つことにしました。
ベルリンでの生活、活動は10年になり、DJを始めて27年が経ちましたが、今まで過ごしたことの無い時間と経験、苦悩や喜びが新鮮でもあって、沢山の人が人生について考え多くの事を学んだように、私自身も多くの気づきがありました。
後で振り返って考えてみればこれが一体何だったんだろうと思うのか、大変興味深い時間です。
今は出来ることをやり、続けられるものは継続、変えていくところはモデルチェンジしながら困難すら楽しむ気概を持って進んでいきたいと思います。
長い間音楽を共有出来ていない仲間との再会がいつになるのか分かりませんが、今は健康な状態を出来る限り保ちみなさん元気で過ごしてください。
今年もよろしくお願いします。
If So Remember
December 15, 2020
曲順は8曲名。
最後は壮大に終わりたい。
時間が経つにつれもっといけるんじゃないかと。
アルバムのマスタリング4ヶ月前にもう1曲トライしたいと思って作った曲がBirth of Perfect Club。
その曲と差し替えになったのがこれ。
アルバム収録予定曲だったし収まるところが無ければボツだろうと。
今年になってDance Tonightをリリースしようとなった時にこの曲をダブルAサイドでまとめるのが収まり良いと、落ち着くところに落ち着いた。
オリジナルは10分30秒のロングトラック。
EPは曲数がある方が良いし、短く編集したバージョンをAA1、アレンジし直したバージョンをAA2に。
ラベルのデザインには手書きとバンドをやってた頃の写真を入れてみた。
定期的にあったギグは唯一の楽しみだったし、絶望してた自分の残された唯一の居場所だった。
音楽は裏切らなかったし、バンドは自然消滅したが、居場所はクラブ、古着屋に変わっていった。
懐かしい。
いい音楽は必然があって生まれる
November 24, 2020
いい音楽は必然があって生まれます。必然が無いといい音楽は生まれません。
日常的な取り組みは必然で、没頭する作業はそのプロセスが正しいから没頭するのであって、偶然と思われるようなことが重なることもありますが、それは必然と捉えるのが正しく、必然であるが故作品は作者を導き、作者の手を離れ固有の運動をします。
成り行きが正しい中出現する音楽は必然であり、その音楽は必然的に未来を作る、その未来は予測不可能ですが、それは既に織りこみ済みで、そうなると定められています。
ポジティブであろうがネガティヴであろうが迂回しようが遠回りであろうがそうなると既に定められているからにはそのままを全て受け入れる、それで充分ですが、その現実を肯定したり否定しながらまた新たな切り口をさし示す、それが価値のある音楽で、それは未来を導き誰かや社会に働きます。
作品はやがて使い古され忘れ去られますが、自然に引き継がれたものが姿や形を変え未来を担います。
自分のためだけの音楽はつまらない、これまで以上に社会や仲間、誰かための音楽を作りたいと強く思います。
最後に10数年ぶりに再会した友達が書いているnoteを紹介します。
彼女は昔CHAOSに来ていた人達に私と同じようにこのアルバムを聴いてほしいと願って記事を書き残してくれました。
面白い記事がたくさんあるので是非読んでください。
Right Moment
December 16, 2019
このアルバムのレコーディングでやったことは大きく二つです。
作品のインスピレーションやアイデアを湧き出るがままにリミッターをかけずバイアスを取り払って音に出し切ること、もう一つは詰めの段階で再調整に時間をかけることでした。
連鎖的に広がっていくアイデアとインスピレーションを丁寧に拾いあげ、勢いだけでは表現出来ない緻密さを再調整に求めました。
緻密さとダイナミックさを兼ね備える音楽は素晴らしいと思います。そんな音楽を作ることが出来る力量は求め続けたいと思います。
少しはその域に達することが以前よりも出来ているのではないかという手ごたえと、それが正しいのか時には道草もしながらこれからも曲作りに没頭していきたいと思っています。
収録曲は各地で2017年から五月雨式にプレイしていました。既に聞いたことのある人はいると思います。
レーベルからもクラブでプレイしていた曲を尋ねられたところからリリースの話しは始まりました。
自身の楽曲とDJの相関関係が強くなってきているのでそれが作品に強く現れてきています。そうなるとまた別のことも始めたくなる。でも今はこのアプローチとメソッドを突き詰めながら作品のクオリティーを上げることに集中していきたいと思っています。
出来上がる怖さはあります。でも今はアルバムに収録された曲をみなさんと共有出来ることを喜びたいと思っています。